セックスマスター
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小さなビルの前に一人のスーツ姿の中年が立っていた。手にはチラシを握りしめ、ビルの三階を見つめている。 「チン」
男はおそるおそる手に握っていたチラシを小さな窓に差し込んだ。 ついたてのおくから、中年女性の声が聞こえる。 男は言われるまま、財布から三万円を取り出し差し出すと、かわりに厚紙で作られた会員証と黒いマスクを渡された。
男はマスクをかぶり、隣の扉の中へ入っていった。部屋の中には三人、折り畳みイスにすわっている。 上下のジャージを着た男、工事現場の作業着を着た男、グレイのスーツを着た男の三人である。みな同じマスクをかぶり、新参者の方を振り返った。 新参者の男は、空いているイスに腰掛けた。 「ガチャ」 「んー、それじゃあ、始めるよ。」 「いいかい?ここは、セックスのへたくそな男たちを救う場所さ。ここで学んだテクニックを嫁でも風俗嬢でも誰でもいいから、試してみな。相手はあんたたちから離れられなくなるんだ。」 イスに座っている男たちからうめき声が聞こえる。 「はい、あんた。」 赤い女はジャージ男を指さした。 ジャージ男が答える。 ビシッ、赤い女は持っていた鞭でジャージ男の足元の床をたたいた。 「誰が、あんたの本名を聞いた?あん?私が聞いているのは、会員証に書かれた名前だよ。」 よろしい、と女はうなずき、今度は作業着男を指さした。 「い、“色黒”です。」 女は大きくうなずき、グレイのスーツ男に同じ質問をした。 「“パトロン”です。」 新参者の番がやってきた。 「う、“宇津井健”です。」 女は満足そうにうなずき、ビシッと鞭を鳴らした。 かくして、マッスル、色黒、パトロン、宇津井健の四名は、この赤い女のセックス養成講座を受けることになった。
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